当直をしているといろんな方がいらっしゃいます。
夜中の3時に、数時間前に熱が出たのでと受診される1歳のお子さんとお父さん・お母さん。
ご両親はいまにも泣きそう。
お子さんは比較的元気そう。
医療者の間では、こうした場合に往々にして、
なんで朝まで待てなかったのかなという怒りの声が聞かれることがあります。
たしかに、適切な受療行動について学ぶのは大切なことです。
一方で、ここには二つの問題があると感じます。
ひとつめは、その「適切な受療」について、私たちはちゃんと患者さんと家族に発信しているかという問題。
病院のそとで、私たちが努力すべき課題を、教えてもらってるとも考えられるんじゃないかな、と思っています。
ふたつめは、ネット社会で、いろいろ情報があってもなお、受診するのにはなにかある、という問題。
誰も夜中の3時に機嫌の悪いこどもを連れて、寒い中、夫婦揃って、あしたも仕事があるだろうに、病院にいじわるで来たりはしないと思います。
受診した理由が、純粋にその子の医学的な重症度で解釈できるとは限りません。
夜中に、軽症でもいらっしゃるおうちほど、なにかあるかアンテナを張る必要があると私は思っています。
よく聞けば、
ひとり親で夜中まで働いていて帰ってきたら熱が出ていてどうしようもなくなった、とか、
はじめてのこどもで実家も遠くて熱があるけどどこを冷やしたらいいかわからなくて自分ももともとパニック障害でどきどきして困っていた、とか。
先のご家族は、夜中に来てはいけないと思っていたけれど、解熱剤でも熱が下がらないのでこのまま熱がどんどん上がってどうかなるのではと夫婦で話し合って、でも不安すぎて来院したそうです。
だいじょうぶですよ、と丁寧に熱の説明をして、つぎからの熱の対処法と受診の目安を伝えます。
さいごに、お子さんに、
「お父さんとお母さん、心配になっちゃったんだって、愛されてるんだね」
とあたまを撫でておしまいにしました。
もちろんがっくりするようなこともたくさんあり、
バランスが難しいなと思う夜中の外来。
それでも、眠気に負けずにアンテナを伸ばしていられたら、と思っています。
(小児科医 山口有紗)
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<プロフィール>
小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。
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