忘れものが多く、授業についていっていないようだと学校で言われました、
とお母さんが男の子をつれてきました。
3回目の診察室です。
まず男の子とお話をします。
サッカーが好きなこと。20分やすみに仲間と遊ぶこと。
おばあちゃんを手伝って庭の手入れをして、500円もらって、ジュースを買ってあとは貯めといたこと。
「20分やすみ」みたいな半端に長い時間が苦痛な子たちもいるなか、しかも、実は周りの人いわく、彼は運動は得意そうにみえないらしいのだけれど、サッカー好きがそのまんま生きて、自信をもって友達をさそえるって、かっこいい。
話の後半に、ちなみに困ってることある?ときくと、「あんまりないかな」、と。
うん。学校の先生が、忘れ物や勉強のことで、●くんのことを気にかけて、できることあるかなーって言ってると聞いたんだけど、自分としては、どうかな。
「忘れ物は、借りるから、あんまり困らない。
勉強は、理科の実験のことばが、ときどき言えないけど、べつに困らない。」
そっか。
「でも、先生が、困ってるみたい。」
うん。
もちろん、彼なりの不便さややりにくさは端々に、あるのだと思います。
でも忘れてはいけないのは、
困難さは関係性の産物であって、だれかひとりの特性には帰結しないということ。
その子をそのまま抱きしめたい気持ちでいっぱいになりました。
目の前の子どもが、だいじなことはみんな教えてくれます。
(小児科医 山口有紗)
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<プロフィール>
小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。
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