患者さんのことはできるだけ、待合室までお迎えにいくようにしています。
待合室には情報がとても多いのです。
たとえば、 診療する相手が子どもなので、本当に具合が悪いから機嫌不良なのか、ただ白衣の人が嫌いで機嫌が悪くなったのか、診察室に入ってからではわかりません。
待合室でご家族から離れて遊んでいて、「ほら、太郎くん行くよ!」と言われているなら熱が高くてもまず大丈夫、というように、スクリーニングの大切な指標になります。
あるいは、
子どもはひとりでは病院にくることはまずないので、誰ときているか、どんな関係なのか、なんとなくつかむことができます。
夜中の3時に発熱で受診した子どもが、おばあちゃんたちも一緒に大人数できていると、きっと育児に心配がたくさんあるのだろうなと予想できるし、健診でお父さんやおばあちゃんがいっしょにいるかどうかとか、父母が離れて座っているとか、きょうだいがついてきてくれているとか、遊び場から子どもを呼び寄せたり靴をはかせたりするときの仕草がどんな感じかなとか。
いつも一緒に待っているお父さんがいらっしゃらず、お母さんの傍におじいちゃんおばあちゃんがいらっしゃり、きいてみると「実はお父さん逃げちゃったんですよ」とほろりと泣いていたとても若いお母さんもいました。
待合室の風景から、診察室で待っているよりもたくさんのことを教えてもらうことができます。
そして気づくたび、この待合の外にはもっともっと、子どもとその周りの方のいろいろな景色があるんだな、とはっとします。そこに想いを馳せて話をしたいなと気が引き締まります。
きょうは診察室の一歩そとのお話でした。もっとそとの風景に、子どもと家族の生活に寄り添いたいな、と日々思っています。
(小児科医 山口有紗)
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<プロフィール>
小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。
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