きょうの診察室

Vol.13

レッテル

子どもにかかわるとき、できるだけ貼られたレッテルの向こうがわのその子と、向き合いたいと思っています。

たとえば、「言ってもやらない」「約束を守れない」というレッテル。
きょうの外来にきてくれたのは、絵の上手な優しい子です。 不注意や多動についての診断をされたことがあります。

忘れ物チェックリストで忘れ物が減っていたのですが、 最近は面倒でやらなくなってきて、忘れ物が増えてきて、怒られることも増えてきて、先生がやってといっても走って逃げ、、というような悪循環に陥っていました。
「言ったことをちゃんとやってくれない」とお母さん。

でもその子は、前回の外来での約束はよく覚えてきてくれます。
「つぎは、なまはげの絵を描いてあげる」 というと、かならず覚えてきてくれます。
前回は、宿題をやってから遊びに行く約束をみずから宣言してくれたのですが、
「先生と、こないだ約束したのなんだっけ」 と、私がなまはげのつもりで聞いても、 「しゅくだい、、、」 と覚えていて、実際に宿題をやってから遊びに行っているようです。

もちろん、子どものことを想うと、 あれもできたらいいな、もっとこうならいいな、でも今は、、、できない! となるのは自然な感情かもしれません。
でもまずはその子ができていることに全力で向き合うことを大切にしたいなと思います。

お母さんの前で、宿題をやっていることを絶賛すると、とてもうれしそう。
「忘れ物リスト、もう一回やってみない?」
「リストのまるつけ、楽しくなるように、シールかスタンプにするのはどう?どっちがいいかな」
と相談すると、悩んでシールを選んでくれました。少しだけ笑って。

子どもとっては、レッテルの向こうにあるその姿を、ほめられることは本当に大切です。
そのうえで、自分で選択するスペースを用意すること。
でもそれはすごく近くにいる人には、大切すぎて近すぎて難しいかもしれない。
だったらちょっと離れたところにいる人が、それをできたら、と思います。

(小児科医 山口有紗)



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<プロフィール>

小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。

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