きょうの診察室

Vol.42

I FEEL SO SAFE

外国の方の診療をするときにはいちおう、
日本語と英語はどちらがいいですか、と尋ねるようにしています。
(両方ダメということももちろんありますが)

英語で診療が超スムーズにできるかというとそうでもないこともあるけれど、
相手にとって日本語がわかりにくいなら、
どちらが近づいても一緒かな、ならば近づきたいな、と思うからです。

ある日の救急外来にいらしたご家族。
外国籍のようで、日本語が片言なので、どちらがいいですか、と聞きます。
英語がいいというので英語で診療をして、処置を終えて、最後の質問などを受けているときに、お母さんが言いました。

"(英語で診察をしたことについて)What can I say, well, I feel so safe today."

直訳すると、「なんというか、きょうは安心しました」ということになるのだけれど、
お母さんがいう「safe」ということばにわたしはとてもこころを動かされ、じーんとしました。

safeは安心、とか安全、とか守られている、というニュアンスの単語です。
わたしたちが話す「言語」が、相手にとって「safe」な気持ちを与えられるものかどうか。
これは英語であっても、日本語であっても、同じなのかな、と思いました。

むしろわたしは医学英語がスラスラ出ていないから、
平たいことばでたまたま「safe」な気持ちを共有できたけれど、
日本語で早口で難しいことを言ったら、母国語であってもぜんぜん「safe」ではないはず。

相手にとっての「言語」と、じぶんにとっての「言語」を、近づけること。
ともに共通言語を探すこと。
あらためて日々を振り返るきっかけをもらいました。

(小児科医 山口有紗)

山口先生のきょうの診察室への想いについてはこちら。
https://www.kidsrepublic.jp/pediatrics/today/detail/vol00.html



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<プロフィール>

小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。

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