きょうの診察室

Vol.56

スーパーに行くんです

ずいぶん長い入院生活をこえて、やっと退院した子どもとお母さんが外来に来ました。
経過がよく、元気に過ごしています。

お母さんがお化粧をしっかりしていたので、
「あ、●さん、したまつげのマスカラしてるの初めてみました」
と言うと、
「だって先生、きょうね、スーパーに行くんです」

お母さんは退院してから半月の間、
子どもを連れて外に行くのがとても怖くて出かけられなかったそうです。
なにか病気をもらうんじゃないか、思いがけない悪いことがあるんじゃないか、って、
不安で出られなかったと。
でも数日前に、お風呂場でお子さんの後ろすがたをみたときに、
次の外来で大丈夫だったら出かけようと決心したそうです。

「わたしがひるんでいると、この子も遠慮しているのがわかって」
「だからきょうはね、いっしょにこの子とスーパーに行くんですよ。
ひさしぶりのお出かけでもう、どきどきはらはらうきうきですよ」

病気になったとき、日常の"あたりまえ"は大きく変わります。
それをどのように受け取って、過ごすか。
病気の子どもと家族はたくさんのことを教えてくれます。

いろんな葛藤のまじったお母さんのしたまつげ。
目頭が熱くなりながら、ふたりを見送りました。

(小児科医 山口有紗)

山口先生のきょうの診察室への想いについてはこちら。
https://www.kidsrepublic.jp/pediatrics/today/detail/vol00.html



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<プロフィール>

小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。

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