きょうの診察室

Vol.80

せんせい、おうちがなくなっちゃうの?

3月はお別れの季節です。
外来のお子さんに、きょうで先生とはおしまいだよ、という話をするのは、
わかっていても、寂しいなと思います。

ある女の子と、お別れのお話。
きょうで先生とのもしもしはおしまい、次から別の、やさしい先生に交代だよ。
「どうして?」
先生はお引っ越しするんだよ、とお母さん。

「、、、じゃあ、せんせい、おうちがなくなっちゃうの?」

女の子は本気で心配してくれます。
だいじょうぶ、ちゃんとつぎのおうちがあるからね、ありがとう。

ちょっとくすっとなる会話かもしれないけれど、いろいろ想いが巡りました。
人間は、行く場所と帰る場所を、一生懸命作って守ろうとします。
あるところからいなくなる、ということは、次の場所がある、ということと同義ではありません。

わたしは東日本大震災のあと、3月末の宮城県の避難所で、ある女の子と話していた時のことを思い出しました。
またあしたね、というとその子は、
かえるの?と尋ねました。真剣に。
うん、と何気なく答えたわたしに女の子は言いました。

「そうか、おねえさん、かえるおうちあるんだね、よかったね」

わたしはショックでしばらく、身動きが取れなくなりました。

自分に、いま受け入れてもらえる場所があり、
また環境が変わっても、つぎの場所があること。
ほんとにありがたいな。
女の子がこの大切な時期に、あらためて思い起こさせてくれました。

(小児科医 山口有紗)

山口先生のきょうの診察室への想いについてはこちら。
https://www.kidsrepublic.jp/pediatrics/today/detail/vol00.html



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<プロフィール>

小児科医師。専門は子どものこころ。
目指しているのは、「子どもとその周囲が、少ししんどいときにこそ、安心してつながることのできる社会」。
高校を中退後、単身渡英し、ロンドンのインド人病院でボランティアを行う。
帰国後は京都で働きながら児童養護施設や不登校の子どもとかかわる。
大学入学資格検定に合格後、立命館大学国際関係学部で開発支援や母子保健を学び、約30の国や地域を歴訪。
卒後山口医学部に編入し、医師免許取得。国立国際医療研究センター病院小児科コース研修医、東京大学医学部附属病院小児科、茅ヶ崎市立病院小児科を経て、2017年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部や児童相談所などで子ども・家族のこころの診療に従事。
診療の傍ら、子どもに関わる多様な専門家がつながるコミュニティ「こども専門家アカデミー」を主宰している。

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